いのちの詩!

遠い子供の頃の目に 焼きついているもの

山あいの川面に光った鮎の一瞬のきらめき

あれは、いのちのきらめきではなかったか

 

岩陰に見つけた魚に一瞬心をときめかせ

今にも掴めそうな手のひらから 

目にも止まらぬ素早さですり抜けていった

あれは、いのちの躍動ではなかったか

 

ぎりぎりと照りつける、真夏の太陽の下

声を限りに鳴き続けるアブラゼミニイニイゼミ

あれは、いのちの叫びではなかったか

 

停まった木にそっと手を伸ばして息を呑んだときで

一瞬にして手のひらから潜り抜けていった

あれは、いのちの瞬間移動ではなかったか

 

焼け付いた川原の砂石の上に干からびた鮠の屍骸

ほこりだらけの道端に 死んでカラカラなったアブラゼミ

夏の日照りに耐え切れずもだえ死んだミミズに

真っ黒になるほどたかっていた蟻の群れ

 

失われたいのちの空しさと

いのちあるものの素晴らしさが

遠い子供の頃に このまなこを通って 

こころの中にしみこんだのではなかったか

 

ぐねぐねと曲がっていた田んぼのあぜ道はいつのまにかなくなり

不揃いな大小の田んぼも四角い大きな田んぼに変わった

田んぼのそばの細い用水路も 一夏中泳ぎ遊んだ川も

すっかりコンクリートで改修された

 

友達と服をドロドロに汚して追っかけた

鮒やナマズは溝にも川にも見かけることもなくなり

もう遠い昔のことになってしまった

 

私のいのちを見つめる心は確かにこの少年時代に芽生えた

社会は長足の発展を遂げて

子供たちはあらゆる「物」に取り囲まれてこの上ない環境に恵まれた

 

しかし、私のような昔人から見れば子供たちも青年たちも

ゲーム機やスマートフォンのちっぽけな箱の中に閉じ込められて

それに気づかないままに

いのち無きものと夢中になって遊んでいるようにしか見えない

 

年寄りのひがみだと言われそうだが

社会の長足の発展は極めてもろく

どうしようもないアンバランスな土台の上に作られていったような気がする

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 清流 千種川