コスモスの咲く坂道

 私は花を観賞することぐらいはあっても、自分で植えて育てることなどやったことがない。妻は、家の空き地に色んな樹木や花や鉢植えなどをやっている。空き地が広いので、一部にコスモスを植えた。色んなものを植えるのは良いが、膝が痛いことを理由に、植えた後の雑草の処分などはほとんどやらない。そのままにしておくと、雑草の中に植えたものが呑み込まれてしまう。雑草の処理は、見かねた私の一手引き受けとなってしまう。コスモスは子供の背丈もあるほど成長したが、最近まではほとんど花もつけず、夏の強い風雨にさらされて、茎が曲がったり倒れたりしていたので、もう咲かないものと思って、雑草も取らないままにしていた。ところが、ここ一週間くらいの間にどの茎にも一斉に花が咲きだした。このままではせっかく咲いた花も可哀そうと思い、雑草征伐をすることにした。昼から四時間かけて雑草を取り除いた。コスモスの茎や枝にぐるぐるに巻き付いた蔓のような雑草を全部取り除くと、コスモスのピンクや白の花が澄んだ秋の空に見事に映えて、ようやくすっきりとした気分になった。風にゆらゆらと揺れる花を見ていると、十四歳の頃の少年時代を思い出した。中学時代、彼女と一緒に自転車を押しながら帰った坂道に、夕日に照らされて咲くコスモスの花がずーと続いていた風景を。もう半世紀も前になる。心ときめいた少年時代の記憶も遠いものとなってしまったが、コスモスの花を見るとなぜか懐かしい気がする。