秋桜
家の敷地の中にある空地は、一年中雑草ばかり生い茂る。
草刈りが私の仕事だが、雑草の中に何十本か生えているコスモスだけは
刈らずにおいた。
コスモスは子供の背丈ほど大きくなったのだが、夏にやってきた台風の雨風にことごとくなぎ倒されて、根元から折れてしまっているものもあった。
茎に支えの棒を括り付けて立ち上がらせたが、地面に倒れこんでいるものも多かった。
しかし、コスモスは強くて元気だ。みんな地上すれすれのところから、直角に上を向いて太陽に向かって伸びていったのだ。
もう、白やピンクのつぼみがたくさん出てきた。
澄んだ秋の空に、風でゆらゆらと揺れるコスモスの花の景色は大好きだ。
秋桜で思い出したが、転勤になって1年だけ神戸で仕事をしたことがある。
もう十年以上も前のことだ。
職場の近くに「秋桜」という居酒屋があった。
わずか一年であったが、上司に誘われてよく飲みに行った。
ママはちょっぴり太めの美人で、淡路島出身とだけ聞いたが名前などはわからない。
若いころにバレーボールをやっていたことと、五木ひろしが好きだということが共通点で、何となく話が合った。
私が行くと、五木ひろしの曲を聞かせてくれたりして、それとなくこまごまと気を使ってくれた。
それから二年ほどして神戸に行ったとき「秋桜」の店の前を通ったら、屋号が変わっていた。
知人に聞いたら、ママは心筋梗塞で倒れて、店を廃業したとのことだった。
明るく、誰にも気さくで、はつらつと働くママだったが、元気になって、働いているのだろうか。
願わくば、コスモスのように、雨風に耐えて、地上すれすれのところからまっすぐ上に、太陽に向かって伸びて行ってくれていることを祈るのみだ。